第2回 ジェントル・ティーチング公開ワークショップ

1998年1月20〜21日 富田林市 すばるホール/大阪
1998年1月22日 東京ウィメンズプラザ/東京

第2回公開ワークショップの中から「桃花塾におけるジェントル・ティーチングの推進状況」
の発表を以下紹介します。なお、文章化するにあたって表現を一部変更しました。

 


桃花塾におけるジェントル・ティーチングの推進状況

 ただいまより、桃花塾におけるジェントル・ティーチングの推進状況を発表します。まず、取り組みの概要をスタッフM本より説明させていただきます。

 私たちの施設は知的障害児・者施設です。児童の入所施設と成人の入所更生施設、それから治療教育相談室で構成されています。直接ケア・スタッフはすべてジェントル・ティーチング研究会の会員です。私たちはこの理論および技法を日本のみならず、異なる文化・社会構造をもついろいろな国に、広く普及させていくことができればと考え、現在はアメリカ、オランダ、日本の3ヵ国で共同研究をしています。これまで1994年と1995年にマクギー先生を桃花塾にお招きして、講義や利用者への直接的なアプローチを通して様々なことを学びました。それ以降の取り組みとして、桃花塾ではスタッフが8つのグループに分かれて、プロモータを中心に連携をとりながら、ジェントル・ティーチングを推進してきています。きょうは、それぞれのグループの推進状況を発表したいと思います。

 こんにちは、成人部のU海です。よろしくお願いします。現在、私たちのグループは4名で、月に1回程度の割合でミーティングをもっています。今まで4年間、ジェントル・ティーチングを学んできて、その時その時の時点でお互いがどう変わってきたのかを主に話し合い、日々の実践に生かしてきました。ミーティングでは次の4つのポイントを中心に話し合いを続けてきました。まず第1に、どのような実践場面で躓いているか。第2に、改善されてきたことは何か。第3に、自分自身で絶えず心がけていること、あるいは心がけていなければならないことは何か。第4に、どのようにしてコミュニティを形成していけばよいか、ということです。ここで私たちのグループでよく話し合われた内容で特に印象深かったことを2、3挙げてみます。
 まず、指示が通らない時に、ついつい強い口調になってしまうという点です。課題を第一と考えるからそうなってしまうわけです。技術の獲得が第一ではなく、自分も相手も一緒にやって楽しいかどうかが大切なのです。課題は人と人とがかかわりあう手段の一つであるという認識がなければ陥りやすい落とし穴だと思います。また、日々の日課に追われてかかわり合う時間がもてない、という意見がよく出されました。これも私たちが陥りやすい錯覚です。あたたかい言葉をかけたり、やさしいまなざしを向けたりするのにどれだけの時間がかかるのでしょうか。場合によっては2、3分でも十分なのです。この意味において、かかわりはいつでももてるのです。
 話し合う中で「誠実に対応する」「不誠実だった」などの表現が多用されましたが、その語感は伝わるが意味が曖昧であることが次第に明らかになりました。「誠実に接する」とは具体的にどのように行動することなのか、すぐには頭に浮かびませんでした。相手からの語りかけに対し、急いでいる時でも足を止めて相手の顔を見て話を聞く、さらに時間が必要であれば一緒に腰を下ろして話し合う、このような姿勢をまずもつことが誠実な対応につながっていくと考え、実践していきました。その後の大きな変化として、互いに声をかけ合う場面が頻繁に見受けられるようになりました。余暇時間に利用者が独りでソファに座っているという光景があまり見られなくなり、自然と誰かが傍らで過ごしています。楽しい会話が飛び交い、施設全体の雰囲気がさらに明るく変わってきたと感じています。
 他の活動としては、『こころの治療援助』の輪読と、ワークブックを用いた実践の評価を行っています。以上が私たちのグループの取り組みの現状です。ありがとうございました。

こんにちは、成人部のH部です。口べたでうまく話せませんけれども、きょうこの機会に皆さんと親しく、仲間としておつき合いすることができれば幸いです。どうぞよろしくお願いします。まずビデオを少し見ていただきたいと思います。
 <VTR>これが私たちのグループで話し合っている場面です。栄養士が1人、ケア・スタッフが3人の構成です。月に1回の話し合いを通して、それぞれの現状や問題点を議論し、理解を深め、情報交換をしています。自分自身の見方がパターン化していないか、一面的になっていないかを見つめ直すよい機会になっています。実践場面では、とりわけ接触の少なかった人たちに意識的に声をかけながら、仲間の輪を拡げていこうとする活動を開始しました。このような実践の中で気がついたことを少しだけ話させていただきます。
 利用者の中には孤立して離れた場所で過ごしている人もいます。このような人には特に交わりを求めて声をかけました。このような人の中には話しかけてもらうのを待ち望んでいる人もいました。このような人が生き生きと対応してくれたことに、私たちはとても大きな喜びを感じました。胸が一杯になるという人もいました。これがマクギー先生の言われる「ギフト(価値)をもらう」ということだと思います。このような実践は当然ながら他のスタッフや外部の人たちにも同じように拡げていかなければなりません。この点は、これからさらに充実させなければならないと思っています。お互いに支え合い、交わってこそ「生の文化」だと、グループ全体が認識するところまで至りました。私たちのグループは、種を蒔き、ようやく小さな苗木が芽生えてきたところです。『こころの治療援助』というテキストをさらに熟読しながら、大きな木に育てようと頑張っているところです。

 こんにちは、児童部のK玉です。
私たちのグループも先に発表したグループと共通した実践を行っていますが、その中でもキッチンテーブル・アセスメントの活動を中心に話したいと思います。キッチンテーブルでの話し合いでは、各々の構成員が肩肘を張らずにできるだけオープンに話し合うことによって交わりの感情を確立していきます。私たちのグループは、ケア・スタッフと栄養士の4名で、栄養士が入ることにより文字通りキッチンに関係のある食生活について話し合いました。立場の違うスタッフが話すことにより、他のスタッフは新しい見方を学べます。例えば、偏食のある人に対するかかわり方で、健康上の問題を配慮するあまり優しさに欠けていたり、食事をする楽しさに欠けていたりするという点が指摘され、ジェントル・ティーチングを推進していく中で、どのように改善すべきか熱心に話し合いました。ご覧のビデオはその時の様子です。<VTR>また、援助者が変わっていくにはどうすればよいかということも頻繁に話し合いました。スタッフ同士が協力し合って、お互いが支え合う必要性が確認され、さらに文化や自然に触れる機会を共有しようという計画も現在立案中です。

児童部のI山と申します。よろしくお願いします。
私たちのグループは、成人部のケア・スタッフ2名と児童部の看護婦、そして私の4名です。他のグループと同様にテキストとワークブックを使用して、お互いに共感した点や疑問点などを話し合っています。また、交わりの関係がもちにくい人たちの中から具体的に対象者を挙げて、どのようにかかわっていけばよいかを話し合い、他のスタッフの意見も聞きながら、私たち自身がどのように変わっていけばより良い関係が築けるのか、具体的に話し合い、実践しています。例えば、自分より年長の人たちのニーズや高齢化という現象をどのように捉え、具体的にどう接していくことがその人たちのQOL向上につながるのか、というようなことも問題点として出され、話し合っています。いくつかの改善点については他のプロモータの発表と共通していますが、いずれにしてもできる限り具体的な体験を出してもらうことによりオープンな話し合いを進め、難しい問題に関してはプロモータ同士の話し合いの中で検討しています。

O宮です、よろしくお願いします。
ただいま各グループのプロモータから報告しましたように、私たちはジェントル・ティーチングの実践状況を検討し、理論や技法を再確認するため、各グループで話し合いを続けてきました。その中では、先程の報告にありましたように、日課や行事を順調に進めていこうとするあまり、利用者との個別的な人間関係を築いていく心の余裕をなくしたり、あるいは自分が変わらずに利用者だけを変えようとしたり、利用者と職員との固定観念に基づく関係から抜け出せないなどの状況が今のところまだ認められます。私たちはこうした古い意味に基づく「死の文化」を克服して、相互依存的で連帯を基盤とする「生の文化」を創造し、それをコミュニティに拡げていく作業を続けていきたいと願っています。先程の報告にもありましたように、心理士、栄養士、看護婦といった専門職員がケア・スタッフと共に話し合いに参加することにより、利用者との関係において違った捉え方ができるようになり、ジェントル・ティーチングを基本とするかかわりを実践する中で、お互いを気遣うようになり人間関係が一層深められてきた、こうした例が多く出されてきています。相手の人を変えるのではなく、援助者自身が変わっていくことが大切である。この意識をもって私たちは話し合いを続けています。そして、日常的にはジェントル・ティーチングの4つの柱をいつも念頭において、これを実践していくように努めています。援助者と利用者が信頼関係を築いていく中で、援助者が自己評価をきちんと行い、より質の高い援助ができるよう努力する姿勢をもつことが大切であると考えます。このようにして、コンパニオンシップが確立され、相互変容が実現されるよう強く願いながら、私たちは日々努力を続けている状況です。

 以上、職員グループの報告と2つの事例発表(個別事例およびグループ事例はプライバシの都合上省略)をいたしました。最後に、今後の方向性について施設長より述べさせていただきます。

 いま、桃花塾のスタッフから発表がありましたが、このジェントル・ティーチングはビデオにまとめると非常にきれいにできてしまうので、果たして本当なんだろうかと思われる方も多いかもしれません。マクギー先生ともよく言っているんですが、ジェントル・ティーチングが宗教のようになってしまったり、援助者がジェントル・ティーチングの狂信者になってしまってはいけない、そこのところが一番大切ではないかと思います。そのためには、私たちは常に科学的な見方をしていなければならないと思います。具体的には、私たちはまず1対1の関係をもちますが、その1対1の関係の中で何をしなければならないかというと、その都度その都度のアセスメントを確実に行っていくことです。本日ご参加の皆様には知的障害をもつ人にかかわっておられる方が多いようですが、特にワークブックにある援助者の自己評価を確実に行っていくことと、対象者との相互作用がどのように変化していったかを明確にしていくことです。それと利用者と援助者が何人かで取り組んでいるわけですから、キッチンテーブル・アセスメントを定期的に実施することです。そして最終的には、先程の話にもありましたが「生の文化」へ向かうにはどうしていったらよいかを考えます。
 そこから次の段階、他の人へのアプローチへと移っていくわけです。例えば施設で生活している人の場合を考えると、その人の周囲には様々な人がいます。当然家族がいたり友人がいたり、あるいは施設では専門家といわれる人たちがいたり、働いている人であれば職場の同僚がいたり、就学している人であれば学校の先生や友だちがいたり、病院では医者や看護婦がいたりといろいろな人がいるわけです。その人たちへのアプローチが実際にどのような段階を経ているのか、それについてもアセスメントがいると思います。ですから、1対1の関係からコミュニティの形成へと向かうには、その都度アセスメントが必要になります。そして、一人一人へのアプローチを確実にしていきながら、最終的にはどのような社会を目ざすのかをふまえたシステム構築をしていかなければいけないのです。そのシステム構築のために何が必要かというと、例えば障害者のためにはノーマライゼーション理念がありますが、それだけではやはり不確かです。中身として必要なものに、取り敢えずはQOLが考えられます。QOLの中には、人権、社会参加、自己決定などいくつかの領域がありますが、それぞれが非常に重要な意味をもっています。その中身を充実させていくことでどこに向かっていくかというと、私たちがそれぞれの人生を充足させて共に生きていく、そこに向かうべきであろうかと思います。ですから、このジェントル・ティーチングというのは出発点であると同時に、皆が平和に生きられるという目標に向かう一つの大きな運動でなければならないというように私たちは考えます。以上、桃花塾における現在の取り組みの発表を終わります。

<用語解説>
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